ベランダに置いてある鉢植えのシクラメンがやっと咲いた。自身で宣言していた通り、妻がバンザイをしていた。ほかにもっと気の利いた芸当がなかったのか…。ツマらない妻である。
　一昨年の暮れに銀座のクラブ帰りと思しき乗客が、忘れていったのか捨てていったのかわからないものを保管していたのだが、枯れてしまい土だけが残っていた。
　保管すべき期間も過ぎたものの、妻が何となく捨てあぐねているうちに、真ん中から小さな葉が芽吹いてきて、「あら、まだ生きていたんだわ」などと喜んでいた。そのうち葉はかなり生い茂ってきたのだが、花は咲かない。
　「葉っぱばかり出てきて、養分が吸い取られ花が咲かないのかしら」と心配していたところ、つぼみがぽつぽつと出始めた。ところがこのつぼみがなかなか開かない。ふつうなら年末ころに咲くのではないか…とそちら方面の知識を全く持たない私は、花屋の店頭にシクラメンが並ぶ時期を勝手に開花の季節ととらえているのだが、実際はどうなのだろうか。
　寒風にさらされるベランダでは、花もなかなか咲く気にならないのかもしれないが、室内に入れるのは妻はいやなようだ。にもかかわらず「咲かないのかしら」と気をもんでいた。それがやっと開花したのだ。か細いように見えても地中でじっと耐え、満を持して花を開くまでのようすを見ながら、私も少し感動した。
　若いころは草花などには全く興味がなかったし、旅行といえば山よりも海だった。その私が自然に触れる喜びを感じるようになるとは…。もう、その自然にこの身が還る時期が近いということなのだろうか。
　追記:昨日つまり20日は私の65回目の誕生日だった。お祝いは自分で作ったちらし寿司とイチゴのデコレーションケーキ。なんのことはない、喜んでいたのは妻と息子で、当の私は忙しい思いをしただけだった。